人事異動を拒否できるのはどんな時?職場に意思を伝える際の流れも紹介
会社という組織に属して働いていると、突然異動を命じられることがあります。異動先が元々希望していた所や憧れていた所なら良いですが、できれば避けたいと思っていた部署であれば、そう簡単には受け入れられないかもしれません。もし異動を内示された時、どうしても会社からの命令に納得できない場合は拒否できるのでしょうか。本記事では、人事異動を拒否できるか否か理由と合わせてご紹介します。
人事異動とは?
人事異動とは、企業が勤務場所や業務内容といった従業員の配属を変えることです。
主に「配置転換」「出向」「転籍」の3種類がありますが、まず配置転換は同じ会社の中で職務内容や部署、勤務場所が変わることを意味します。
会社によって多少の違いはあり、社内での異動は全て配置転換と呼んでいる所もあれば、移動を伴わない所属部署のみの変更を「配置転換」、勤務地が変わることによって転居が必要となる異動は「転勤」と呼ぶなど、使い分けをしている会社もあります。
出向は会社との雇用契約を維持したまま別の会社で勤務すること、転籍は雇用されている会社を退職し、別の会社で雇用契約を締結して勤務する異動を指します。
いずれにしても、人事異動を言い渡された従業員は拒否しない限り、新たな場所で一から仕事を覚えていくことになります。
ベテランの社員でも新しい仕事に慣れるまでにはそれ相応の時間が必要で、作業効率も下がるかもしれません。そのようなリスクを負ってまで人事異動を決行するのは、もちろん会社側に目的があるからです。
例えば、人材育成のためによく人事異動が行われます。異動すると新たに仕事を覚えていかなければいけない反面、新しい知識やスキルを習得していくことができます。
また、様々な業務に携われば視野が広がり、会社全体のことを考えて仕事ができるようになります。
人材育成を目的にした異動は特に幹部候補の人材に行われるケースが多いですが、来るべき時に備えて社内事情を理解しておいて欲しい、社内外の人脈を広げて欲しいといった狙いがあると考えられます。
欠員補充や不正防止のためにも人事異動は有効です。例えば、中小企業などではある特定の業務を一人の従業員に任せている状態がしばしば見られます。
しかし、どれだけ業績優秀なスペシャリストであっても、怪我や病気、突然の退職という可能性はゼロではありません。さらに、人員が固定されていると周りから干渉されにくくなり、外部との癒着など不正に繋がる危険性も出てきます。
その点、人事異動が行われると、必ず前任者から新任者へと仕事が引き継がれます。
特定の業務を任せられる人材も必然的に増えるため、病欠など突然のトラブルが原因で業務が滞るといったリスクが減ります。加えて、仕事の透明性も保ちやすくなりますので、不正も起こりにくい状況を作れます。
そして、従業員の適性に合わせて、異動を決める時もあります。配置された部署で思うような活躍ができなかった従業員も、部署を変えてみると力を発揮するようなことがあります。
合わない場所で無駄な時間を過ごすより、適正な場所で活き活きと働く方が従業員にとっても会社にとっても有益と言えます。
人事異動は拒否できる?
不本意な人事異動の命令を拒否できるかという点ですが、結論から述べると基本的には拒否できません。
労働契約法8条には「会社は、業務上必要がある場合に、労働者に対して就業する場所及び従事する業務の変更を命ずることがある」「会社は、業務上必要がある場合に、労働者を在籍のまま関係会社へ出向させることがある」といった規定が設けられています。
そして、会社は従業員に対して採用や配置、解雇など、地位の変動や処遇に関する決定権限の「人事権」を持っており、この人事権に基づいて人事異動の命令を出すことができます。
就業規則や雇用契約書にて人事異動に従うよう規定が設けられていることはごく一般的であり、仮に規則で定められているにもかかわらず人事異動を拒否すると命令違反とみなされます。
懲戒処分の対象となれば降格や減給、さらには懲戒解雇になる可能性も出てきます。
とはいえ、会社が人事権を振りかざして一方的に従業員の就業場所を決定できる訳ではありません。人事異動には契約上の根拠が必要となります。
ひとえに人事異動といっても前述のように「配置転換」「出向」「転籍」など種類がありますが、種類によって従業員の受け止め方も変わってきます。
まず、最も地位に対する影響が小さいのが配置転換となりますが、この場合は労働協約や就業規則、個別の労働契約にて配置転換を命じることができると定めている必要があります。
そして、出向を命令する場合も労働契約や就業規則、労働協約などの根拠が必要です。
従業員にとっては労務を提供する会社が変更となり、キャリアや労働条件に大きな影響を及ぼすことが考えられますので、出向が不測のことではないよう配慮しなければいけません。
会社の規則に出向に関する規定が定められており個別の同意もあること、または個別の同意がなくても規則で出向に関する規定があり、出向期間や出向先の労働条件、復帰の際の条件など不利益にならないような内容であれば、出向する従業員からの承諾を得たとみなされます。
最も地位に対する影響が大きくなるのが転籍です。元の会社の労働契約が終了し、別の会社と新たに労働契約を結ぶことになるため、法的根拠は従業員の個別的同意となります。
就業規則などで転籍規定が定められていたとしても、個別同意を得られなければ会社の意向で勝手に転籍させることはできません。
このように、出向や転籍を命じる場合は従業員からの同意が必要になりますが、同じ会社内での配置転換に関しては規則に人事異動権についての記載があれば会社側の裁量権が大きくなります。
ただし、配置転換命令が人事権の範囲外の場合や権利濫用に当たる場合は無効となり、従業員は人事異動を拒否できる可能性も出てきます。
人事異動を拒否できる理由6選
人事権の範囲外や権利の濫用に当たる場合は人事異動を拒否することができますが、具体的にはどのような理由になるのでしょうか。ここからは、拒否できる理由と拒否する際の注意点やコツを解説していきます。
就業規則に人事異動に関する記載がない
就業規則に人事異動の条項が入っていなければ、異動命令を拒否しても何の問題もありません。適正に人事異動を行うには労働契約上の根拠が必要であり、就業規則はきちんと整備しておく必要があります。
ただし、例外はあります。長期雇用を前提に正社員として採用された人を対象に、よく配置転換が行われている状況の場合、「配置転換について黙示の合意があった」とみなされるケースがあります。
黙示の合意が認定されると、たとえ就業規則に人事異動についての規定がなかったとしても、配置転換の無効を受け入れてもらえない可能性が出てきますので注意が必要です。
労働条件に人事異動に関する規定がない
就業規則同様、労働条件通知書も人事異動に関する規定がなければ、従業員は人事異動を拒否できます。
労働基準法第15条にて「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない」と定めている通り、会社は従業員を雇用する際に労働条件を書面に落として内容を承諾させておかなければいけません。
ちなみに、労働条件の絶対的明示事項には労働契約の期間や始業及び終業の時刻、賃金、退職に関する事項などがあり、人事異動に関する規定は「就業の場所及び従業すべき業務に関する事項」の中に含まれます。
最初に配属となる部署や勤務場所に加え、「業務の都合により就業場所を変更することがある」といったように、人事異動を示唆するような文言が並べられていることが多いです。
また、個別の労働契約にて、就業規則と異なる労働条件で終結しているケースがありますが、労働契約法に基づき、原則として労働契約の定めが優先されることになっています。
つまり、就業規則だけチェックして異動の無効を諦める必要はありません。労働条件通知書は重要な根拠となるため、無効を訴える従業員は見落としなく、隅々まで読み込んでおくことが大切です。
雇用契約で勤務地や職種が限定されている
雇用契約書にて勤務地や職種が限定されているケースでも異動の拒否は可能となります。
そもそも雇用契約書とは、雇用主と従業員との間で労働条件について合意したことを証明するための書類で、お互いに署名や捺印を取り交わし、それぞれ1部ずつ保管しておくのが一般的です。
文書の必要性は任意であるため、従業員に対して雇用契約書を書面にして渡さずとも、会社側が罰則を受けることはありません。
ただ、コンプライアンスに厳密な企業の中には労働条件通知書を交付した上で、改めて特に重要な部分を記載した雇用契約書を作成している所もあります。
雇用契約書の記載内容も基本的には労働条件通知書とあまり違いはありません。契約期間や就業場所・業務内容、賃金などを明示しておきます。
その中で、もし勤務地や職種を限定している場合、その範囲を超えての人事異動の命令は会社の人事権の範囲外となり認められません。
記載されている地域や職種で働くことを前提に雇用されている訳であり、強引に異動を推し進めるような行為は会社側の業務違反と捉えられます。
勤務地や職種を限定して雇用された場合、途中で新しいことに挑戦したい、仕事の幅を広げたいと思っても実現させるのは難しくなりますが、絶対に転勤や職種変更などの人事異動をしたくない人にとっては理想的な働き方と言えます。
雇用契約書は入社前に渡されることが多いですので、必ず目を通しておき、不明な点は担当者に確認しておきましょう。
介護・育児などやむを得ない事情がある
介護や育児といった家庭のやむを得ない事情も、人事異動拒否の理由になります。
高齢の両親を介護するのは自分しかいない、子供が病気で入院治療が必要といった状況で転居を伴うような転勤を命じられても、当事者からすれば簡単に承諾できる問題ではありません。従業員にとっては著しい不利益であり、会社側の権利の濫用とみなされることもあります。
実際、育児介護休業法26条でも「人事異動にあたって、子の育児や家族の介護が困難になるような場合に、労働者に配慮しなければならない」といった旨を会社に義務付けています。ただし、この規定は配慮義務であり、必ずしも異動が無効になる訳ではありません。
「単身赴任は家族に迷惑をかける」「保育園へのお迎えが遅れる」などの事情も、確かに各家庭にとっては不利益になりますが、裁判になると認められない可能性があります。
よほど家族が重い病気や障害を抱えている場合は、転勤を命じた会社が違法と判断されるかもしれませんが、会社側が人事異動の命令を出す時に赴任手当や定期的帰宅のための旅費の支給など様々な配慮をしていると、著しい不利益とは判断しにくくなるからです。
家庭の事情も会社の考え方も色々ですので、拒否した時にどう対応されるかは一概に言えませんが、もし話し合いになった時にはきちんと状況を説明できるよう、診断書など必要な書類は事前に揃えておいた方が安心です。
不当な動機による異動命令である
従業員に対しての報復や嫌がらせ、退職に追い込むための方法として異動命令を出している場合は、不当な動機や目的によるものとして異動を拒否できます。
会社側の権利の濫用であり、配置転換命令が違法な命令と判断された場合は、従業員は従う義務はありません。しかしながら、問題はどう会社に認めさせるかです。
明らかな嫌がらせとわかっていても、「業務上の必要性がある人事異動」と断言されると、その先には進めなくなってしまいます。
自身の意見を受け入れてもらうには、複合的な要素から説明していく必要がありますが、特に厄介になるのは直属の上司による嫌がらせです。上司に非を認めさせるのはそう簡単ではないため、はっきりと決着をつけるには裁判にまで持ち込んだ方が良いかもしれません。
自身の病気
判断は難しいですが、自身の病気も人事異動を拒否する理由の一つになります。例えば、うつ病などの精神疾患を抱えている場合、転勤によって通勤時間が長くなると負担が大きくなり、症状も悪化するかもしれません。
そして、身を削ってまで転勤したにもかかわらず、実は業務上の必要性が小さいことが判明した場合は裁判において転勤命令は違法と判断されるでしょう。
一方、異動先でも別の医療機関で治療が継続でき、かつ従業員の雇用を確保するための転勤と判断されれば有効な異動命令となり、異動拒否は認められません。
病気を理由にした異動拒否は、転勤によって従業員がどの程度不利益を被るのか、どれほど業務上で必要性がある転勤なのかが判断基準になります。
うつ病という理由だけで簡単に異動拒否を認められる訳ではありませんが、病状や原因次第では何らかの配慮があるかもしれません。正しい判断をしてもらうには、正確な情報を提供することが大切であり、診断書などの資料を準備して話し合いに臨むことが大切です。
人事異動の拒否の仕方
人事異動を拒否したい時は、まずは会社に拒否したい理由をきちんと伝えます。何かしら疾患を抱えている、両親の介護で遠方には行けないなど事情を説明すると、意外と簡単に異動命令を取り消してくれるかもしれません。
また、異動することになったとしても、負担が大きくならないよう様々な配慮をしてくれる会社も多いです。正直にありのまま話すことが大切で、転勤したくない、異動したくないからと無理に嘘の理由を作り出すのは許される行為ではありません。
そして、自分の事情を伝えた後は会社に異動の必要性を聞いてみましょう。成長を期待しての異動と言われると、転勤も前向きに考えられるようになるかもしれません。
一方、注意したいのは不当な理由が隠れている時です。もしかすると曖昧に理由を濁されてしまうかもしれませんが、一語一句聞き漏らさないために録音しておくと安心です。録音した内容は、弁護士に相談するとなった際に有効な資料となります。
会社からの説明に納得できない場合は、拒否する理由を書面にして会社へ提出します。
ここからは個人で交渉していくことになりますが、内示から異動までの期間はそれほど長くありません。限られた時間の中で引き継ぎ業務を行わなければならず、交渉に時間を費やすほどの余裕を持てない可能性が高いです。
もし単独交渉に限界を感じたならば、無理せず弁護士に相談した方が賢明です。弁護士は専門的な知識も豊富で、異動拒否のための手続きをする際は具体的なアドバイスもしてくれますので、心強い存在となるでしょう。
人事異動の拒否が難しそうなら
弁護士の力を借りても、人事異動の拒否は難しいケースもあります。しつこく交渉を続けた結果、配転命令に従わないことを理由に解雇されるかもしれません。
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